本書は、2005年にRoman Signerがカルパート山脈を抜けウクライナとルーマニアへ行った際に撮影された写真を収録している。これらの写真は、道中で目にとまったものを撮影しているのだが、以下の2種類に分けられる。1つは家庭菜園のフルーツや野菜、その他販売目的で作られた製品が椅子や机の上に並べられている風景、もう1つは交通事故などで亡くなった家族や友人のために手向けられた花や十字架、リースなどだ。この2種類の被写体はフォーマット、色合い、構図、そして写真家と被写体との間にある距離感など、似たようなコンポジションで撮影されているが、これは一方が生命を維持するもの、成長、豊富さを象徴するものである反面、他方は悲劇的事件や悲しみの記憶であるという痛切な意味合いを含んでいる。
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