ドイツ・ベルリン北部に設置されたザクセンハウゼン強制収容所の跡地には、追悼の意を込めて記念施設・博物館があり、その中心に位置するのが、SS(ナチス親衛隊)によって使用されていた[Station Z]と呼ばれる火葬場。廃墟となったこの土地に、ドイツの建築家HGメルツ(1947-)が抽象的な防護施設を設計し、1998年から2005年にかけて建設した。この建築物は、かつての火葬場からそのまま残されていた基礎を保護する、また訪問者に黙想の場を提供するという目的のもとに手がけられた。イタリアの写真家ウォルター・ニーダーマイヤー(1952-は決して華々しさはないが極めて印象的な方法で、この場所の悲痛や歴史的な記憶を写真を通じて描写した。全てのビジュアルが観音開きの状態で収録されている装丁からも、隠蔽されていた無惨な出来事のその裏側を紐解き、しっかりと見つめていくような緊張感が演出され、ニーダーマイヤーならではのハイキートーンと薄曇りの空が相まって、現代の情景にも拘らず半世紀以上前に刻まれた追憶と重なるような不思議な感覚が芽生えてくる。
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